私にとっては、
「趣味=生活」
なのかもしれない。

M様

number:
453
structure:
マンション
type:
3LDK→1LDK
area:
72.9㎡
construction:
全面改装
place:
大阪市都島区

リフォームのきっかけ

 ある日、リビングのフローリングが端からめくれてきました。経年劣化というほど築年数が経過していたわけではありません。「こんなことってあるの?」と思った私は、中途半端にめくれたフローリングをベリベリと最後まで剥がしてしまいました。
 大阪市内で便利が良く、職場や家族の家にも近かったこともあり、新築時に購入したマンション。しかし、特に愛着はありませんでした。

 フローリングの一件があってから、私は急に家の中のことが気になりはじめました。一人暮らしでは持て余す3LDKの間取りは、ほとんど使っていない共用廊下側の部屋がなんとももったない。閉塞感のある玄関や、掃除のしにくい開き戸タイプの扉も急に不満に思えてきます。それにハウスダストの影響か、どうも体調が優れない・・・。そこで私はリフォームすることを決意。日経新聞に定期的に広告を掲載していた遊に問い合わせ、まずはリフォームセミナーに参加しました。

 セミナーで紹介される事例は広い部屋や豪華な仕様が多く、私の好みとは違ったのですが、施主の意向に沿った幅広い提案が可能ということで、それなら相談してみようと思いました。
 シンプルな暮らし、という漠然としたイメージはありました。しかし、どんな間取りやどんな素材がいいのか、私には明確に言葉にすることができない。結局、やりたいことが固まって具体的な話になったのは、セミナーから1年後のことでした。

人生や幸せを見つめ直す

 リフォームをするにあたり、まずはモノを捨てるところからはじめました。断捨離が世の中でブームとなり、ミニマリストなるものが登場する頃には、私のなかで「モノを捨てる基準」が明確にできあがっていました。

 ヴィーガンという存在をご存知でしょうか?ヴィーガンとは絶対菜食主義者のことで、ベジタリアンと違い、ヴィーガンは卵や牛乳も口にしません。また、ウールや毛皮を着ることもありません。ヴィーガンの思想は、一言でいうと「人間は動物を搾取することなく生きるべきだ」というものなのです。
 その思想に共感した私は、すべての革製品を捨てることにしました。ブランド物のバッグや靴も、素材が革であれば、躊躇なく捨てることができました。

「365日のシンプルライフ」というフィンランド映画では、主人公がモノにあふれた生活をリセットしようと思い立ち、部屋にあったモノ全部を近所の倉庫に運び込みます。そして、倉庫から持ち出せるのは1日に1個だけ、しかも一切何も買わないというルールを自分に課し、1年間生活してみることに。それを通して主人公は、「自分にとって本当に必要なモノはなんなのか」ということを真剣に考えます。

 クロゼットの中身が空になり、心から愛せるモノだけが残った部屋で私は、「これまで自分はモノに振り回されていたのかもない」と思い至りました。モノを捨てることで思考が整理され、自らの人生や幸せについて見つめ直すことになったのです。

自然素材・国産素材のみで

 暮らしをシンプルにするぶん、素材にはこだわりました。
 リフォームのきっかけにもなったリビングのフローリングには杉の無垢材を採用。キッチンとフリールームは栗の無垢材にし、統一感は持たせつつ少し雰囲気を変えました。壁には土佐産の漆喰を塗り、洗面器として信楽焼の器を置きました。また、火山の噴火によって生まれた高千穂シラスを利用した土間たたきや、黒竹の格子など、自然素材・国産素材のみを使用して空間を設えてもらいました。

 そんな私のわがままを快く受け入れ、私が想像もしなかった提案をしてくれたのが、プランナーの張(はり)さんです。彼女はじっくりと私の話を聴きながらショールームなどにも同行し、私のライフスタイルを深く理解しようと努めてくれました。
 ステンレスキッチンをオーダーでつくってくれるメーカーに行った際、杉のカウンター材をそこの社長に紹介されたのですが、その杉は「新月切り」だと教えられ、二人で盛り上がって即決で購入しました。新月切りというのは、冬の下弦の月から新月に至る1週間程度の期間に伐採される木のことで、丈夫で腐りづらいと言われています。

 無垢材に関していうと、油のシミ汚れはどうしても残ってしまいます。しかし、私が使用している油はオリーブオイルやココナッツオイルなど、すべて植物性のものなので、汚れてもそれほど気になりません。むしろそうしてできたシミを愛おしく思っているくらいです。今のところ無塗装のフローリングを楽しんでいますが、いずれは手を加えないといけないときが来るかもしれません。ただ、ヴィーガンとしては蜜蝋ワックスの使用には気が引けるので、米ぬかで磨こうかと画策しています。

ルールを決めて、ルールを楽しむ

 リビングのアールの壁は、大好きなバルセロナの街並みをヒントにしたもの。また、殺風景になりがちなバルコニー側、共用廊下側の窓の手前に太鼓ばりの障子を据えて、部屋の中にもう一つの部屋をつくりました。障子を閉めると、そこがマンションの一室であることをすっかり忘れてしまいます。

 間取りの動線については、玄関からリビングに入るルートのほかに、フリールームに入るルート、バックヤードにつながるルートがあります。このバックヤードにつながるルートが特に気に入っていて、私はいつもここを利用しています。洗濯機の前で着ていた服を脱ぎ、そのままバスルームへと直行するのです。そして、出かけるときはフリールームで服を着替え、そのまま玄関に出ます。

 モノを持たずモノを増やさない私にとって、「私服の制服化」はひとつのテーマ。数着の服を効率よく着回すために、この動線は理想の形と言えました。

 ちなみに、服はモノトーンで統一しています。モノトーンにしようと決めると、それ以外の色のものは迷わず捨てることができました。今後は素材をリネンに揃えようかと目論んでいて、リネンは洗いざらしのしわのある風合いでよければアイロンがけも不要なので、先日購入したアイロンも近々処分することになるのかなと思っています。

 そんなふうに私は、家の中のルールを決め、そのルールを楽しんでいます。まだまだモノは減らせると思っていますし、ある程度足したり引いたりしながら、暮らしをさらに洗練させていきたいですね。

もっと住みこなせるように

 家にはテレビもなければ、ソファもテーブルもありません。私は娯楽に興味がなく、生活すること自体が趣味と言ってもいいかもしれません。
 掃除機は使わず、箒で室内を掃除しています。シュロという木からつくられた国産の箒で、ネットに「在庫なし」と書かれていた商品をメーカーに頼み込んで取り寄せました。毎晩その箒を使ってフローリングを掃いていると、穏やかな気持ちになるのです。のんびりと掃除をしながら、「今度は鉢植えに人参の葉を植えようかしら」などと考えるのが至福のひとときです。

 老前整理を、気力のあるうちに。そんなふうに言うと、夢も希望もないけれど、この部屋で毎日を自由気ままに過ごすことで、私は心が整うし、いつ死んでもいいとすら思える。それくらい幸せなリフォームだったのです。

 リフォームにおいて大切なのは、ライフスタイルを住まいにどう反映するか、なのではないかと思います。間取りや設備のことを考えるのも重要かもしれませんが、たとえばモノが多いからと収納スペースを増やしても、結局そのスペースに合わせてモノは増え続け、モノに振り回されることになってしまいます。
 適材適所にモノを配置し、「きれい」ではなく「美しく」住まうこと。
 私は50歳を迎えるタイミングでリフォームをして、この先の人生について深く考えるようになりました。最初は「他人の家」みたいな感覚もありましたが、最近ようやく体に馴染んできています。もっともっと住みこなせるように、これからもこの家で考えを巡らせていきたいと思っています。